上の図は、1995年12月から1996年2月までに静岡県内の各気象官署(気象台や測候所)で雪が観測された時の天気図やその時の天気分布を調べ、前回述べた3つのパターンに分類してグラフ化したものです。ちなみに、1995〜1996年の冬はそれまで続いていた暖冬傾向から冬らしい寒さになり、静岡県内では平年より雪が多くなりました。
(1) 西高東低型の降雪について
西高東低型での降雪は期間全体で見ると、県西部ほど多い傾向にあり、浜松や御前崎ではほとんどこのパターンでの降雪でした。特に浜松では他の地点よりずば抜けて多く、13回観測されました。逆に石廊崎では全く観測されませんでした。月別に見ると、12月の降雪は全てこのパターンであり、1月もこのパターンの降雪が大半を占めていました。しかし、2月になるとその割合は小さくなりました。
この要因は気候的に見ると、西高東低型は冬の早い時期から現れますが、2月になると寒気が徐々に弱まり出し、その出現回数が減ってくるからです。また、西高東低型の雪による降水量は静岡県内では一般的に少なく、積もるほど降ることはあまりありません。なお、静岡県内ではこのパターンで降る雪のことを「風花」と呼びます。つまり、この雪は「降っている」という表現よりも「舞っている」という表現の方が適当なのです。地形的に見ると、この雪を降らせる雲は北西の季節風に乗って、若狭湾から関ケ原を通過して濃尾平野へ流れ込みます。そして、その雲がさらに東へ進んでくると県西部に到達します。寒気が強ければ強いほど雪雲の流れ込む量が多くなり、雪を降らせる範囲が広くなります。しかし、県西部より東へ雪雲が流れ込んでくることは少ないです。これは雪雲が東へ進んでくるうちに水分を失って徐々に弱まってしまうことや、高い山に行く手を阻まれてしまうことが考えられます。
このことから、第1章や第3章で述べてきたように、名古屋では初雪が早く、1月に雪が最も多いことと関係しています。名古屋での降雪の大半はこのパターンであることが容易に想像できると思います。
(2) 南岸低気圧型の降雪について
南岸低気圧型での降雪は期間全体で見ると、地域的なばらつきがあまり見られませんが、強いて言えば、県西部で少ない傾向にあり、御前崎では全く観測されませんでした。月別に見ると、網代で1月に1回観測された他は、全て2月であり、12月には全く観測されませんでした。
この要因は気候的に見ると、(1)で述べたように、2月になると西高東低の気圧配置の出現回数が減り、それに代わって低気圧が日本付近を通過するようになってくるからです。また、低気圧による降水量は他のパターンより多いために、完全に雪として降れば積もりやすく、積雪量も多くなります。地形的に見ると、このパターンでの雪は関東地方で最も降りやすく、この地方では平野部でも時には20〜30cm以上の積雪を観測することがあります。これは低気圧が日本の南岸を通過する場合、関東地方では北東方向から吹いてくる冷たい風の影響を強く受けますが、東海から西の地方ではそれほど強く受けないからです。そのため、東海から西の地方では雨でも、関東地方では雪ということがよくあります。
このことから、第1章や第3章で述べてきたように、東京では終雪が遅く、春先の雪が多いことと関係しています。東京での降雪の大半はこのパターンであることが容易に想像できると思います。また、東京に近い県東部の積雪日数が他の地域より多いこととも関係しています。
(3) 局地前線型の降雪について
局地前線型での降雪は期間全体で見ると、西高東低型とは逆に県東部ほど多く、県西部ほど少ない傾向にありました。特に、浜松では全く観測されませんでした。月別に見ると、三島と石廊崎で1月に1回観測された他は、全て2月であり、南岸低気圧型と同様に12月には全く観測されませんでした。
この要因は気候的に見ると、真冬は西高東低の気圧配置の日が多く、前線が発生しにくいからです。また、この前線の雪による降水量は、普通の低気圧に伴う前線と比べると規模が小さく活動が弱いために少なく、ほとんど降水のない場合も多いです。そのため、この前線によって大雪になることはほとんどありません。地形的に見ると、第5章の図で見てきたように、前線は駿河湾付近に発生し、雲はその東側にできるために、この影響を受けるのは県東部が中心になるからです。